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東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)16号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1 成立に争いのない甲第二号証及び甲第六号証によれば、本願発明は、合成ポリマーからの管シート及び中空糸の製造法に関する(補正明細書第三頁第一九行、第二〇行)ものであつて、扁平シート又は中空糸の形の多くの膜は本件優先権主張日当時公知であるが、改良された膜、ことに簡単に製造することができ、かつ容易な紡糸材料で面倒な紡糸浴を用いないで操作することのできる膜の要求が存在し、さらに多孔性であり同時に大きい選択性で十分な透過性によつて優れている改良された膜の要求が存在する(同第七頁第七行ないし第一四行)との知見に基づき、ポリマーを簡単な方法で押し出し得る紡糸物質に変えることができ、同時に面倒な紡糸技術又は紡糸浴で操作する必要がなくて押出し及び押出物質の固化を可能にすること、及び単に方法のパラメータを変えることによつて調整し得る多孔度、透過性又は浸透性を有する管シート及び中空糸を製造することができる方法を得ることを技術的課題(目的)とし(同第七頁第一五行ないし第八頁第三行)、右技術的課題は、一方の成分は融解性ポリマーであり、他方の成分はポリマーに対して不活性液体であり、両成分は液状凝集状態で完全な混和性の範囲及び混和間隙を有する範囲を有する二成分系を形成する少なくとも二つの成分からなる均一な混合物を、凝集温度以上の温度で押出成分の混合物の不活性液体を含有しかつ凝離温度以下の温度を有する浴中に押し出し、形成した管シート又は中空糸を固化させる製造方法によつて解決される(同第八頁第三行ないし第一三行)として、特許請求の範囲1.(本願発明の要旨)の構成(同第一頁第五行ないし第一六行)を採用したものであることが認められる。

そして、前掲甲第六号証によれば、本願発明において使用される二成分系について、本願明細書には、「本発明を実施するためには、(中略)重要なのは、両成分は液状状態でなお二液相を同時に形成することである。この点において本発明によつて使用することのできる系は、溶解したポリマーは温度を下げると、差当たり冷却の間に液状凝集状態を経ないで固体物質として直接的に沈澱する系とは異なる。」(補正明細書第一一頁第八行ないし第一八行)、「一般に均一な混合物の温度は押出し前に、臨界温度又は各々の組成物に相応する凝離温度を上まわるわずかな目盛りで存在すると十分である。」(同第一四頁第一五行ないし第一八行)、「均一な紡糸物質は、押出された成分混合物の不活性液体を含有しかつ凝離温度以下の温度を有する浴中に押出す」(同第一五頁第三行ないし第五行)、「重要なのは押出された混合物が浴に入る前になお単相である、即ち主としてまだ二相への凝離が生じないことである。」(同第一五頁第一八行ないし第二〇行)と記載されていることが認められる。

本願明細書の右記載事項を総合すると、本願発明においては、使用される融解性ポリマーと不活性液体の二つの成分は、それらを加熱混合することによつて形成される液状の均一な混合物が管シート又は中空糸の形状に押出し成形され、冷却固化される過程で、冷却浴中に入るまでは単相を形成していていかなる相分離も生じていない状態、すなわち「液状凝集状態で完全な混和性の範囲」内にあるが、次いで凝離温度以下、すなわち両成分が完全に均一な液状の混合物の状態を維持できる温度より低い温度を有する浴中に押し出されて冷却されると、まず融解性ポリマー相と不活性液体相の二液相に液液相分離した状態、すなわち二液相が「混和間隙を有する範囲」にある状態に移行し得る性質を有するものであると理解できる。

この点に関し、原告は、本願発明においては「浴は温度段階を有し、紡糸浴の初めから出口末端まで連続的に下がるようになつている」旨主張するが、本願発明の要旨は、不活性液体を含有する浴の温度について、押出成分混合物の「凝離温度以下を有する」と規定しているのみで、原告主張のように限定されていない。前掲甲第六号証によれば、原告の援用する補正明細書第九頁第二行ないし第一一行の「本発明の方法の特別の実施形式では、温度段階を有する浴を使用する(後略)」との記載は、温度段階を有する浴を使用する場合を本願発明の実施態様中の特別なものであることを説明しているにすぎず、また同第一五頁第一三行ないし第一七行の「温度は、既に二成分系に適用される状態図に相応して固相が生じる範囲内で動くように大きいと、生じる管シート又は中空糸の構造を直ちに固化させることが必要であり、これは浴の内部で温度を適当に下げて行なうことができる。」との記載は、その前の「浴の温度は(中略)少なくとも使用した混合物の凝離温度以下の一〇〇度Cで存在する。」(同頁第八行ないし第一二行)との記載を参酌すると、生じる管シート又は中空糸の構造を直ちに固化させる必要がある場合には浴温を一〇〇度Cより適当に下げて行うことができることを説明しているものと理解できるが、この記載をもつて、浴として温度段階を有するものを使用することが本願発明の必須の要件であるとは到底いえないから、原告の前記主張は採用できない。

そして、前掲甲第六号証によれば、右の過程に従つて液液相分離している状態にある二成分系がさらに冷却されてその中の融解ポリマー相のみが冷却固化される結果、本願明細書に「管シート又は中空糸の孔は種々の形を有することができる。このようにして、孔は円形又は長方形であつてもよく、相互に例えば結合する小さい中空室によつて、例えば孔が直接的に相互に入りまじつて連結することができる。ポリマー約三〇%に過ぎない含量を有する混合物から得られた管シート又は中空糸の場合でさえも、ポリマーはなお個々の孔が分配され、或る程度分離しているが、相互に連結した中空室を形成するマトリツクスである。逆に中空室はフリスの場合と同じようにしてマトリツクスを形成し、ポリマー物質はあたかも原繊維状に配置されている構造も生じ得る。この両構造の移行は流動的であり、例えば混合して生じる。」(補正明細書第二〇頁第四行ないし第一八行)と記載されているように、本願発明においては、融解性ポリマー相と混在していた不活性液体相の形状に相当する形状の互いに連通している状態にある空隙や孔を有する構造のポリマー成形品が形成されるものと理解できる。

2 一方、成立に争いのない甲第七号証によれば、引用例記載の発明は、三次元の、細胞状微細構造体を特徴とする微孔性重合体構造体及びその製造方法に関するもの(第八頁左上欄第一三行ないし第一六行)であつて、その特許請求の範囲(47)に「オレフイン系重合体、縮重合体、酸化重合体及びこれらの配合物からなる群から選択された合成熱可塑性重合体と相溶性液体の混合物を均質溶液を形成するのに十分な温度と時間に加熱すること、前記の溶液が所望の形状をとるにまかせること、熱力学的非平衡液液相分離を開始するのに十分な速度と温度で前記の所望の形状の前記の溶液を冷却すること、固体を形成するように冷却を続けること、そして微孔性重合体構造体を形成するように生成する固体から液体の少くとも実質上の部分を除去することを含む比較的均質の、等元性の、三次元微孔性重合体構造体の製法」(第三頁右下欄第一九行ないし第四頁左上欄第一〇行)と記載され、右製法に関連して、審決認定のA指摘個所、すなわち「本発明の別の面では、合成熱可塑性重合体、特にポリオレフイン、(中略)と相溶性液体の混合物が均質溶液を形成するに十分な温度と時間に加熱されるように微孔性重合体を形成する方法が行なわれる。次にこの溶液が冷却され、かくして実質上同一の時間で実質上同一の寸法の多数の液滴を形成する。次にこの冷却が続けられて重合体を固化しそして少くとも液体の実質上の部分が生成する固体から除去されて所望の細胞状重合体構造体を形成する。」(第一〇頁右上欄第一七行ないし左下欄第八行)、「内部連絡する通路又は孔が細胞状構造体に形成される方式は十分に理解されない。(中略)孔の形成は冷却の際重合体相の熱収縮によるものであり、液体溶媒小滴は溶媒が重合体より小さい膨張係数を有する時には圧縮不能な球体として挙動する。別に、そして指摘されているように、溶媒小滴がその最大寸法に達した後でさえ、重合体に富む相はなお若干の溶媒を含有し、そしてその反対の場合もある。(中略)重合体に富む皮中の残留溶媒はそれ故に溶媒小滴へ拡散し、重合体に富む皮の容積を減少し、そして溶媒小滴の容積を増大する。概念的に、これは重合体皮を弱化し;そして溶媒又は液相の容積増加は重合体皮を通して破裂し、隣接の溶媒小滴を連結することができる内部圧力を生ずる。この最後の機構に関連して、例えばその種の重合体が使用される時に結晶化により、残留液体が重合体皮から移動するにつれて重合体が更にコンパクトな状態へそれ自体再分布する。この状況では、生成する重合体皮は収縮し勝ちであり、かつ多分特に弱い区域に置かれた欠陥又は孔を有する。予期されるように、この最も弱い区域は隣接の液滴の間にあり、そしてこの状況では、この孔は隣接の液滴の間で形成しそして溶媒小滴の間に内部連絡を生ずる。とにかく、この機構とかかわりなく、方法がここで記載したように行なわれる時に内部連絡する孔又は通路が固有に生ずる。」(第一八頁右下欄第六行ないし第一九頁左上欄第一六行)との記載のほか、熱可塑性重合体と相溶性液体の二成分からなる均質溶液から形成される成形品及び該成形品の冷却固化段階において重合体構造体中に微細な孔又は空隙が形成される過程について、次の記載が存することが認められる。

(a) 「均質性液体の成形 溶液の形成に続いて、次にこれを処理して任意の所望の形状又は構造を供する。(中略)例えば従来の押出し、射出成形又は他の関連技術により微孔性材料が所望の複雑な形状へ処理されることを許す。」(第一七頁右上欄第一八行ないし左下欄第七行)

(b) 「均質溶液の冷却 (中略)処理(例えば、フイルム等への成形)の型式にかかわりなく、固体として挙動しかつ外観を示すものを形成するように溶液は冷却されねばならない。」(第一七頁右下欄第一三行ないし第一七行)、「冷却の速度は液液相分離が熱力学的平衡状態下で起こらないように十分に速くなければならない。更に、冷却の速度は結果の微孔性構造体に実質上の効果を有する。多くの重合体/液体系に対して、冷却の速度が十分に遅いが、なお前記の基準を満足する場合には、液液相分離は実質上同一寸法の多数の液滴の形成を実質上同一の時に生ずる。冷却速度が多数の液滴が形成するものである場合には、前記に論議したすべての他の条件が満足されている限り、結果の微孔性重合体は前記に定義したような細胞状微細構造を有する。一般に、液液相分離が開始するために、第1図に示すように、バイノジアル曲線以下の温度に液体系を冷却することによつて本発明の微孔性重合体の独特な構造体が得られると思われる。この状態で、原則的に純粋な溶媒からなる核が形成し始める。冷却の速度が細胞状微細構造体が生ずるものである時には、この各々の核が成長し続けるにつれて、これが重合体に富む区域に取囲まれ、これは液体がなくなるにつれて厚さを増大すると思われる。結果的に、この重合体に富む区域は溶媒の成長する小滴を覆う皮又はフイルムに似る。(中略)かくして冷却は連続重合体相中で実質上同一の寸法の多数の液滴を実質上同一の時に形成するような方式で行なわれる。この分解方式が起こらない場合には、細胞状構造体が生じない。少なくとも核形成又は小滴成長が開始されるまでこの系が熱力学的平衡に達しないことを確保する状態を使用することによつて、一般に、適当な分解方式が得られる。(中略)冷却が多数の液滴の形成を生ずる範囲内では、冷却の速度は生成する細胞の寸法に影響するとの一般的指示があり、冷却の速度が増加するとより小さな細胞が生ずる。(中略)従つて、更に詳細に論議されるように、最終の細胞及び孔の寸法を調整するために、所望に応じて、外部冷却が使用できる。」(第一八頁左上欄第一一行ないし右下欄第五行)、「均質溶液の冷却が十分に速い速度で起こる場合には、液液相分離は非平衡熱力学的状態下で起こるが、本質上核形成及び続く成長が起こらない程急速に重合体の実質上の固化が起こる。このような場合には、多数の液滴の形成はなく、そして生成する微孔性重合体は明確な細胞構造体を有しないであろう。」(第一九頁右上欄第一九行ないし左下欄第五行)

(c) 「前記の方法により細胞状の、三次元の、ボイド微細構造体、即ち実質上球状の形及び隣接の細胞と内部連絡する孔又は通路を有する一連の閉鎖された細胞を特徴とする微孔性重合体生成物を生ずる。基本的構造体は比較的均質であり、この細胞は三次元を通して均一に間隔が置かれ、そして内部連絡する孔は水銀浸入により測定して寸法分布で比較的狭い直径を有する。参照を容易にするため、このような構造を有する微孔性重合体は、“細胞状の”と称される。」(第一〇頁左下欄第九行ないし第一八行)

引用例の右記載事項を総合すると、引用例の特許請求の範囲(47)記載の発明(以下単に「引用例記載の発明」という。)においては、熱可塑性重合体と相溶性液体の二成分から調製される均質溶液状態の混合物が押出成形法などの成形手段によつて所望形状の成形品に成形された後、重合体が固化するまで冷却固化される過程で、右二成分は所望形状に成形された成形品の段階では未だ均質溶液の状態にあるが、引き続く冷却によつて、まず液体重合体相中で実質上同一寸法の多数の溶媒液滴が同時に形成されるように液液相分離(熱力学的非平衡液液相分離)し、次いでさらに冷却されて液体重合体相のみが固化するという過程を経るものであり、その結果固化された重合体中に右溶媒液滴が占めていた空間に相当する孔又は空隙が形成されている細胞状の構造の微孔性重合体成形品を製造することができたものと理解できる。

3 原告は、審決は、本願発明と引用例記載の発明とを対比判断するに当たり、本願発明における「両成分は液状凝集状態で(中略)二成分系を形成する」との点は引用例の微孔性構造体が形成される作用機構についての説明と同一であつて両者の微孔性重合体構造体の製造方法の構成に格別の相違はないと誤つて認定した旨主張する。

そこで、前記1及び2の認定事実に基づき、本願発明における「両成分は液状凝集状態で(中略)二成分系を形成する」との技術的事項を引用例記載の発明と対比すると、まず本願発明の「液状凝集状態で完全な混和性の範囲を有する二成分系を形成する」との技術的事項は、融解性を有するポリマーと不活性液体からなる二成分は加熱混合されて均一液状混合物(単相)の状態となり得るものであり、管シート又は中空糸の形状の成形品に押出成形された段階までは当初の均一液状混合物(単相)の状態にあることができるものであることを意味しているのに対し、引用例記載の発明においても、熱可塑性重合体と相溶性液体の二成分は加熱混合によつて均質溶液の状態の二成分系を形成するものであり、押出成形法などの成形手段によつて所望形状の成形品に成形された段階では未だ右二成分が均一混合している均質溶液の状態にあるから、この所望形状の成形品に成形された段階までの二成分系の状態は本願発明において二成分系が「液状凝集状態で完全な混和性の範囲」にある状態と規定している状態と差異はない。

また、本願発明の「液状凝集状態で混和間隙を有する範囲を有する二成分系を形成する」との技術的事項は、管シート又は中空糸の形状の押出成形品(二成分系は液状凝集状態で完全な混和性の範囲にある均一な液状混合物である。)が、その後凝離温度以下の温度の浴中に入つて最終的に固化されるまで冷却される過程で、まず融解性ポリマー相と不活性液体相の二液相に相分離した状態に移行し得るものであることを意味するものであり、右のような二成分系が二液相に相分離している状態にある段階を経由して引続き冷却され、最終的に二液相の内の融解性ポリマー相のみが固化されるという過程を辿る結果、冷却によつて固化されることのない不活性液体相が重合体相中に占めている空間形状に相当する孔又は空隙が固体ポリマー中に形成されている、微孔性構造の中空糸又は管シートを製造し得るものであるのに対し、引用例記載の発明も、二成分系が未だ均質溶液の状態にある成形品は、最終的に固化するまで冷却される過程で最初に液状の熱可塑性重合体相と相溶性液体相の二液相に相分離した状態(熱力学的非平衡液液相分離状態)に移行した段階があり、引き続く冷却によつて液液相分離している状態の右二液相の内の熱可塑性重合体相のみが最終的に固化されるという過程を辿る結果、冷却固化されることのない相溶性液体相が熱可塑性重合体相中に占めている空間の形状に相当する形状の空隙が固体熱可塑性重合体の内部に形成され、細胞状の微孔性構造を有する成形品が製造できるものであるから、本願発明において「二成分系が混和間隙を有する範囲」にある状態を経由して冷却固化される過程を辿ることと異ならない。

この点に関し、原告は、引用例の(イ)第二七頁右上欄第一四行ないし左下欄第三行、(ロ)同欄第七行ないし第九行、(ハ)第一〇頁左上欄第九行ないし右上欄第四行、(ニ)同頁右上欄第一七行ないし左下欄第八行の各記載を援用して、「引用例記載の発明は、熱可塑性重合体と相溶性液体とを混合加熱し、そのままこれを冷却固化せしめているのであつて、熱可塑性重合体と相溶性液体を加熱混合してできた均質溶液を、一液相のままで不活性液体を含有しかつ凝離温度以下の温度を有する浴中に押し出す工程、及びこの押し出された混合物を前記浴中で冷却し二液相を形成せしめた後これを固化する工程を欠如し、単に熱可塑性重合体と相溶性液体とを混合加熱して均質化し、これを冷却固化させる工程があるだけである。引用例記載の発明では、一液相の形成工程と二液相の形成工程とは分離せず、また二液相の形成は均質混合液体が冷却固化される際に通過する単なる過程であつて、二液相の形成自体に重要な意味がない。」旨主張する。

そこで、原告の右主張について検討すると、前掲甲第七号証によれば、引用例の前記(イ)の個所には、「製造の方法 下記の実施例に記載される多孔性重合体中間体及び微孔性重合体を下記の工程により製造した…A.多孔性重合体中間体…重合体と相溶性液体を混合すること、均質溶液が形成されるように通常には樹脂の軟化点の近く又はそれより上である温度にこの混合物を加熱すること‥そして次にこれに混合又は他のせん断力なしに溶液を冷却して巨視的に固体の均質塊を形成することにより多孔性重合体中間体を形成する」と記載されており、右(イ)の記載は、これに引続く第二七頁右下欄第六行までの記載部分によつて説明されている最終的に右中間体中の相溶性液体からなる液滴を除去して得られる微孔性重合体の製造方法のうち、右中間体を製造する方法の説明の一部であり、相溶性液体液滴が固体の均質塊中に形成されている状態にある多孔性重合体中間体の製法の概略は、重合体と相溶性液体の混合物を加熱してまず均質溶液を形成し、次にこの均質溶液を冷却して固体の均質塊を形成させることによつて行われるが、その冷却の際には、均質溶液状態の混合物にいかなるせん断力も加わらないように留意すべきことを説明するものであることが認められる。そして、前掲甲第七号証によれば、引用例には、右(イ)の記載に続いて、「中間体の固体ブロツクが形成されるべき時には、この均質溶液を通常には金属又はガラスから作られる適当な容器の中へ注入することによつてこの溶液に所望の形状をとることができ、そして特記しない限りこの溶液は周辺室温で冷却するままにされる。」(同頁左下欄第四行ないし第九行)との前記(ロ)の個所を含む記載や、「中間体のフイルムが形成される時には、薄いフイルムへ溶液の引抜きをできるのに十分な温度に加熱した金属板上にこの均質溶液を注入する。次にこの金属板をドライアイス浴と接触させてその固化温度以下にフイルムを迅速に冷却する。」(同欄第一五行ないし第二〇行)との記載があり、これらの記載は、目的とする微孔性重合体の形状に応じて、それがブロツク体である時には、均質溶液状の混合物をまずブロツク形状の容器中に注入して容器の形状に固定し、引続いて固化するという方法が採られ、それがフイルム体である時には、まず溶液から混合物が溶液状態にあるままにフイルムを形成し、しかる後にフイルム状態にある混合物溶液を迅速冷却固化するという方法が採られることを説明するものであることが認められる。

引用例の前記記載によれば、引用例記載の発明においても、重合体と相溶性液体の混合物を加熱して一液相の均質溶液を形成し、次いで目的とする微孔性重合体製品の形状に成形して一液相状態の混合物からなる成形体を形成する成形段階と、その形状のまま成形体をこれにいかなるせん断力も加わらないように留意しながら冷却し、固化することによつて相溶性液体からなる液滴が形成されている所望形状の固体均質塊、すなわち多孔性重合体中間体を形成するという二つの明確に区別できる二工程が右の順序に従つて段階的に実施されていることは明白であり、原告の援用する引用例の(ニ)の記載もこのことを理由付ける記載の一つであることは前記2認定のとおりである。そして、引用例の前記記載によれば、冷却固化段階で混合物にいかなるせん断力も加わらないようにする必要があるから、所望形状の微孔性重合体を得るためには、混合物にせん断力が加わることの避けられない成形処理工程を、冷却工程前、すなわち混合物が均質液状混合物の状態にある間に終了しておく必要があり、したがつて、引用例記載の発明において、両工程を明確に区分し段階的に実施していることに技術的意義があるというべきである。

また、前掲甲第七号証によれば、引用例の前記(ハ)の個所には、「現在最初に前記の重合体及び下記に論議する相溶性液体を均質溶液を形成するのに十分な温度と時間で加熱することによつて任意の合成熱可塑性重合体が微孔性に変えられることが判明した。次にこのように形成された溶液は所望の形状をとるにまかされそして続いて熱力学的に非平衡の液液相分離が開始するのに十分な速度と温度にこの形状で冷却される。溶液は所望の形状で冷却されるので、溶液が冷却を受けている間混合又は他のせん断力は適用されない。固体が生ずるようにこの冷却が続けられる。この固体は物理的劣化を引き起こすことなしに、これが取扱われることが許されるように十分な機械的一体性を得ることのみ必要である。最後に、相溶性液体の少くとも実質上の部分が生成する固体から除去されて所望の微孔性重合体を形成する」と記載されていることが認められる。しかしながら、右記載のうち「溶液は所望の形状で冷却されるので、溶液が冷却されている間混合又は他のせん断力は適用されない」との記載は、二成分を加熱混合して調製される均質溶液は一定の形状に成形された状態で冷却されることを説明するものであり、また「溶液は所望の形状をとるにまかされそして続いて熱力学的に非平衡の液液相分離が開始するのに十分な速度と温度にこの形で冷却される。(中略)固体が生じるようにこの冷却が続けられる」との記載は、二成分が未だ溶液状態にある成形品が冷却固化されて微孔性構造の成形品となる過程は、溶液を形成している二成分が「熱力学的非平衡状態下での液液相分離」の状態にある段階を経由して最終的に固化されるまでの冷却が行われることを説明するものであつて、(ハ)の記載をもつて原告の主張を裏付けるものということはできないから、原告の前記主張は、すべて理由がない。

したがつて、審決が本願発明において「両成分は液状凝集状態で(中略)二成分系を形成する」とは、本願明細書の記載からみて、引用例、特にA指摘個所における微孔性構造体が形成されるに至る作用機構についての説明と同一趣旨の事柄と解されると認定したことは正当であり、右認定を前提に本願発明と引用例記載の発明とは審決認定の相違点以外に両者の微孔性重合体構造体の製造方法の構成に格別の相違が認められないとした審決の認定に誤りはない。

4 原告は、審決は本願発明の奏する顕著な作用効果を看過した旨主張する。

前掲甲第六号証によれば、本願明細書には、本願発明の奏する作用効果について、「得られた管シート又は中空糸はフイルタとして十分に使用することができ、なかんずく微濾過及び限外濾過で使用することができる。特に適当なのは、医学分野であり、その際この管シート又は中空糸は、例えばその選択性のために血液の濾過では、例えば血小板を分離するために使用することができる。」(第一八頁第一五行ないし第一九頁第一行)、「その表面構造及び内部構造にもとづいて、管シート又は中空糸は一定の物質の基質としても適当である。作用物質を中空糸の膜の内部に通じる中空室中に入れることもできる。この方法で管シート又は中空糸又はこれらの切断物の形の物体を得ることができ、これらは収容した作用物質を徐々に再び放出する。本発明による管シート又は中空糸は、物質を吸着するために役立つこともできる。」(第一九頁第五行ないし第一三行)との記載があり、右記載は本願発明の管シート又は中空糸はフイルタ、吸着剤及び作用物質をその内部に保持するための材料等として使用されることが認められる。

一方、前掲甲第七号証によれば、引用例記載の発明によつて製造される細胞状の微孔性重合体構造体は、引用例に「本発明に従つて製造された微孔性重合体の何れに対しても、特定の最終用途の適用は代表的にはボイドスペースの量及び孔径要件を決定する。例えば、プレフイルター適用に対して、孔径は代表的には〇・五ミクロン以上であり、一方限外ろ過では、孔径は約〇・一ミクロン以下である。」(第二五頁右下欄第一二行ないし第一七行)と記載されているように、限外濾過用等のフイルタとして用いられる外、「微孔性構造体が実際に、機能的に有用な液体のための容器として役立つ場合の適用において、強度を考慮すると含有される機能性液体の調節された放出を伴うボイドスペースの量が指定される。同様に、この場合では、孔径は所望の放出の速度により指定され、より小さな孔径はより遅い放出を供する。(中略)、重合体は単に容器又はキヤリアとして役立つので、代表的にはできるだけ多くの液体を使用することが望ましい。」(第二五頁右下欄第一八行ないし第二六頁左上欄第一〇行)と記載されているように、その微孔性構造体中にある種の機能性液体を一時貯蔵し、所望により放出使用するためのキヤリア又は容器としても用いられることが認められる。

したがつて、本願発明と引用例記載の発明とは、その方法によつて得られるものは、互いに連通している細孔を有する微孔性構造体である点で構造が共通しており、右の構造が共通していることから、限外濾過用のフイルタや、ある種の作用液体又は機能性液体を一時貯蔵し、所望により放出使用するための容器又はキヤリア等として使用され得るものである点で同様の作用効果を奏するものである。

しかも、前掲甲第七号証によれば、引用例記載の発明は、引用例に、「均質性液体の成形 溶液の形成に続いて、次にこれを処理して任意の所望の形状又は構造を供する。一般に、かつ含まれる特定の系に応じて、物品の厚さは約一ミル又はそれ以下の薄いフイルムから約<省略>インチ又はそれ以下の厚さの比較的厚いブロツクにまで異なる。かくしてブロツクを形成する性能は例えば従来の押出し、射出成形又は他の関連技術により微孔性材料が所望の複雑な形状へ処理されることを許す」(第一七頁右上欄第一八行ないし左下欄第七行)と記載されているように、重合体に対する通常の成形手段によつて形成される任意の形状、構造の成形品の製造方法として適用できるものであることが認められる。

また、成立に争いのない乙第二号証(昭和四九年特許出願公開第九〇六八四号公報)、第三号証(昭和五〇年特許出願公開第一二八七七三号公報)及び第四号証(昭和五二年特許出願公開第一五六二八号公報)によれば、本件優先権主張日当時、本願発明の管シート又は中空糸、特に中空糸自体は重合体溶液の押出し成形法による成形品として周知のものであつたことが認められるから、当業者であれば、同じ重合体溶液を原液とする引用例記載の細胞状の微孔性構造体の製法が通常の成形手段によつて均質な重合体溶液から形成される成形品である中空糸の製造方法にも適用できることは、容易に想到することができたものというべきである。このことは、引用例の前記記載から、引用例記載の微孔性構造体は液体のみならず、同じ流体である気体に対しても透過性を有することが十分に推認でき、また前掲乙第三号証によれば、右公報には、引用例記載の発明と同種の微孔性構造を有する中空糸ないし中空繊維が液体の分離のみならず気体の分離用としても使用できる(第四頁右下欄第二行ないし第四行)旨記載されていることが認められることからも裏付けられる。

この点に関し、原告は、引用例の(ニ)第二五頁左上欄第一五行ないし第一八行、(ホ)同頁右上欄第三行ないし第五行、(ヘ)第四頁右上欄第五行、第六行及び第五頁左上欄第一行、第二行(審決の取消事由2参照)の各記載を根拠に引用例記載の発明では液体の透過に不浸透性のもの又は若干の浸透性あるブロツク又は薄いフイルムであつて表面皮のあるものしか製造することができない旨主張する。

前掲甲第七号証によれば、引用例には原告摘示の(ニ)ないし(ヘ)の記載が存することが認められる。しかしながら、右(ニ)の記載は重合体溶液を金属板上に注入する方法でフイルム等に成形すると、製造されたフイルムの金属板と接触していた面には非細胞状の皮が形成されることを説明しているのであつて、フイルム全体が非細胞状の構造体となることを説明しているのではない。右非細胞状皮は金属板と接触した側のフイルム面の極薄い領域に限られ、他の面及びフイルム内部は細胞状構造となつていることは、前掲甲第七号証によれば、前記(ニ)の記載に続き「他の表面は、対照して、代表的には全体として開放されている。(中略)皮の厚さは単一細胞壁の厚さに大体等しい。」(第二五頁左上欄第一八行ないし右上欄第三行)と記載されていると認められることから明らかである。しかも、前掲甲第七号証によれば、引用例には、「溶液がエンドレスステンレス鋼ベルトコンベア上に薄いフイルムとして連続して押出される時には、溶液適用帯の直前でベルトに少量の液体溶媒の適用は溶液―境界面に形成される表面を有効に除去する。」(第二五頁右上欄第一八行ないし左下欄第二行)と記載されているように、右のフイルム形成法の場合でも非細胞性の皮を形成させないように成形することができるものであり、また「全体に細胞状構造体はまた直接に種々の技術により製造できる。かくして、例えば、重合体―液体系は空気又は例えばヘキサンのような液体媒体へ押出すことができた。」(同頁左下欄第一四行ないし第一七行)と記載されているように、全体に細胞状構造体となつているものを製造する方法も明記されていると認められ、前記(ニ)ないし(ヘ)の記載をもつて、引用例記載の発明が非細胞状の皮を有するものの製造方法に限定されるということはできないから、原告の前記主張は理由がない。

したがつて、本願発明が管シート又は中空糸に関するものであり、気体透過性をも有することをもつて、引用例記載の発明からは予期し得ない特段の作用効果を奏し得たものということはできないから、審決に本願発明の奏する顕著な作用効果を看過した誤りはない。

5 以上のとおりであつて、本願発明と引用例記載の発明とは審決認定の相違点以外に両者の微孔性重合体構造体の製造方法の構成に格別の相違は認められないとした審決の認定に誤りはなく、また、審決に本願発明の奏する顕著な作用効果を看過した誤りはない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却する。

〔編注〕本願発明の要旨は左のとおりである。

合成ポリマーから管シート及び中空糸を製造する方法において、一方の成分は融解性ポリマーであり、他方の成分はポリマーに対して不活性液体であり、両成分は液状凝集状態で完全な混和性の範囲及び混和間隙を有する範囲を有する二成分系を形成する少なくとも二つの成分からなる均一な混合物を、凝離温度以上の温度で、押出成分混合物の不活性液体を含有しかつ凝離温度以下の温度を有する浴中に押し出し、形成した管シート又は中空糸を固化させることを特徴とする、管シート及び中空糸の製造法

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